Friday, 20 April 2007

義足の青年

ジムに行った。今夜は空いていたが、春だからかジムで最近女性の姿が以前より目に付く。自分はいつもどおり走ったり、ウェイトトレーニングをしたりする。とてもリラックスできる時間である。

ウェイトトレーニングをしている時、特に腕のトレーニングをしている時、ある青年を思い出す事がある。かつて東アフリカの小国に滞在していた頃、そこでも自分はジムに行っていた。汗臭く薄暗い体育館の一角に年季の入った器具が置いてある地元のジムだ。その国には東アジア人は数えるほどしか居なかった為、ジムの中でもよく好奇の目を向けられたものであった。その日も黙々とトレーニングをしていた。すると一人の青年がやって来て、話しかけてきた。そういう時は単なる外国人に対する好奇心、間接的な「たかり」である事も多かったので面倒なのだが、その精悍な彼はとても流暢な英語で、トレーニングをする時の体勢について親切にアドバイスしてくれた。

最初はそのジムの新人指導員と思っていたが、話してみるとそうではなく、彼自身も時々トレーニングに来ていると言う。確かにその長身の彼はしっかり鍛えられた体躯をしている。かつて空手かテコンドー?をしていたとのこと、パンチやキックの型を淡々と見せてくれる。自分の素人目で見ても彼は素人レベルでは無さそうなので、何故今はやっていないのか聞いてみると、トレーニングパンツをまくって右脚を見せてくれた。無機質で弾力の無い、肌色の義足が、黒人である彼の黒い身体に装着されていた。地雷で失ったと言っていた。その国は30年近く続いた独立戦争終結から10年ほどしか経っておらず、戦傷者がたくさんいて見慣れていたが、彼の義足を見た時には目が覚めた気がした。朴訥な彼自身はそれに関して同情を欲しがる様子も無く、毅然としていた。彼は、戦争の善悪云々を超えた境地にいた気がする。

その後彼には一度も会わなかった。名前も覚えていない。ただ自分は今でも上腕三頭筋、上腕二頭筋という部位のトレーニングをする時は、時々鏡の前に立って彼が教えてくれた型はどうだったかなと腕を動かしている。

その東アフリカの国は、かつてイタリアの植民地であった為、イタリア建築が多く残っている(写真は、ジャカランダの木とイタリア風建築物)

<了>

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